2019年に「コードギアス 復活のルルーシュ」が公開され、ようやくルルーシュの物語が1つの区切りを迎えた。本稿では復活のルルーシュで新たに提示された材料も含め、コードギアス最大のファンタジー的要素であるCの世界、およびコードギアスの神話的世界観に関する筆者の見解をまとめている。

(First Release: 2019/03, Last Update: 2021/12)

Table of Content
-Cの世界とは集合無意識の存在する空間 -Cの世界はアカシックレコードの概念を踏襲 -只人ではCの世界に到達できない -コードの上位に位置し人類にギアスを与えた時空の管理者 -私見: Cの世界を取り巻く事物・事象は階層構造となっている -シャムナが目指すのはCの世界の先にある今の人類の開始点
-まとめ



Cの世界とは集合無意識の存在する空間


Cの世界とは、人類が存在する世界と物理的に離れた集合無意識の存在する空間である。


第98代皇帝シャルルは、その空間内に構築した「アーカーシャの剣(思考エレベーター)」を「神を殺す武器」と呼んでいた。アーカーシャの剣は、集合無意識に干渉し、全人類の思考を統一する「ラグナレクの接続」を成すための物理的システムである。

集合無意識は人類の思考を規定するものであるがゆえ、シャルルはそれを実質的に神とみなしていたのだろう。また、のちにルルーシュやシャムナもそれを神と呼んでおり、コードギアスの世界においてはそれが一定の共通認識であったと考えられる。


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黄昏の間を前にする蜃気楼(「コードギアス 反逆のルルーシュR2」15話より)


Cの世界はアカシックレコードの概念を踏襲


R2 15話では記憶美術館が描かれている。Cの世界は、世界のあらゆる記録を時系列を問わず保存する巨大なデータベースの役割を果たしているらしい

この描写から、Cの世界はある程度アカシックレコードの概念を踏襲していると考えられる。アカシックレコード自体の説明は割愛するが、SFの分野を中心に創作のコンセプトとして定着しているものだ。アカシックレコードにおいては、人類の記録や保存形態を指すのに「図書館」や「永遠の絵画ギャラリー」といった言葉が用いられる。また、前述の「アーカーシャの剣」も、アーカーシャ自体はサンスクリット語でありつつ、アカシックレコードにおける記録を「アカシャ年代記」とも言う。


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C.C.の別人格が案内してくれた記憶美術館(「コードギアス 反逆のルルーシュR2」15話より)



只人ではCの世界に到達できない


人間(種としての人類とは区別して表記)は、コード保持者と接触しギアス能力を覚醒することによって、初めてCの世界を認識することができる。Cの世界は、只人には認識することすらかなわない空間なのである。

一方、コード保持者も素養のある人間しか接触対象に選ばないし、
レイラのように選ばれても覚醒しない事例がある。つまり、そもそもCの世界を認識すること自体、ふつうの人間にとっては非常に難易度が高いといえる。


晴れてCの世界を認識しうる存在となっても、Cの世界に自由にアクセスすることはできない。ギアスを使い倒して「達成人」となり、ギアスユーザーからコード保持者に格を上げる必要がある。

ただし、その過程においても、
マオやⅠ期22話のルルーシュのようにギアスが制御不可となることもあるし、コード保持者が継承相手に選ばないこともある。Cの世界へのアクセス権を得ることもまた、認識することと同等かそれ以上の難易度があるのだ。


実際本編でも、明確に達成人となったことを描写されたのは、V.V.、C.C.、シャルル、ルルーシュのみだ。また、自ら積極的に目指すことで到達したV.V.とシャルル、ギアス乱用の結果として到達したC.C.とルルーシュのように、過程の違いを考慮するならば、意思を持って達成人に至ったのはV.V.とシャルルに限られる


コードの上位に位置し人類にギアスを与えた時空の管理者


ここで思い出されるのは、「コードギアス 亡国のアキト」に登場した時空の管理者である。作品中でも謎多き存在ではあったが、何らかの描写や本人からの説明があった点は以下の通りだ。

・彼女自身は「意識の集合体」である
・「人間にとっては存在しない者だが、見える者には存在する」
・空間や時間への自由な干渉が可能である
・現実世界には直接介入できない
・コードよりも上位の存在である
・人類の遺伝子にギアスを組み込んだ存在である

存在自体が超常的であることは言うまでもない。意識の集合体というのが少し分かりにくいが、筆者は、彼女のことが意識にのぼっていない人間にとっては存在しない者である、と解釈している。一方、「見える者には存在する」。また、遺伝子レベルで人類に影響を及ぼすことができるが、現実世界に直接介入できない(あくまで物理的に干渉ができないだけで、「見える者」と交流を持ち間接的に動かすことは可能である)。コード保持者も、ギアス覚醒能力や不老不死などの点で十分人間離れしているが、肉体を持ち人間のように生きることが可能であるという点においては、時空の管理者の超常性が際立つ。

集合無意識が人間が定めた便宜上の神であるならば、時空の管理者は多くの人間にその存在を知覚されていない、真なる神を思わせる存在だ。

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時空の管理者(「コードギアス 亡国のアキト」より)



私見: Cの世界を取り巻く事物・事象は階層構造となっている


ここまでの内容から筆者は、Cの世界を取り巻く事物・事象の関係性を下図のように考えている。

ギアスユーザーを含む人類、Cの世界にアクセス可能なコード保持者、時空の管理者、それぞれが属する世界が、階層構造になっており、階層ごとに権限や能力の限界がある。また、物質より精神が上位となる(背景となる宗教、哲学に関する説明は割愛)。


(筆者作成)



シャムナが目指すのはCの世界の先にある今の人類の開始点


上記の理解をもとに、シャムナの行動の目的を今一度考え、その結末を想像してみる。シャムナはコード保持者である。彼女が目指していたのは「Cの世界の先」だった。前述のように、Cの世界にアクセスすること自体の難易度が高い。さらにその先へ行こうというのだから、いかなる苦行であろうか。そこでわずかでも成功確率を上げるべく、先代のコード保持者シャルルに波長の近いナナリーを使ってそれを試みている。

シャムナ
シャムナ、到達の直前(「コードギアス 復活のルルーシュ」より)


ルルーシュのせいで平和になってしまった世界では、戦士の国ジルクスタンは生き残っていけない。だから彼女は、Cの世界の先にアクセスし、ジルクスタンにとって、愛する弟シャリオにとって、幸せな世界を作り直そうと考えた。

果たしてCの世界の先に到達すれば本当に世界をやり直せるのか。復活の中でシャムナの発言以上に明確な説明はなかったし、公式の資料やインタビューの中でも確定的な要素はみられなかった。ただ彼女の言葉を借りるなら、そこには人間の「原初」や「根源」があるらしい。

ここで先ほどのアカシックレコードが関わってくる。Cの世界が
アカシックレコードと同様、人類のすべての記録を保存する空間だとすると、その先にあるのはCの世界の開始点であろう。つまり、今の人類史が始まる前の時点である。今の人類の歴史を丸ごとなかったことにして、新たな人類史を始めようというわけだ。

そこに達したときに何が起こるのか、どのような手段でやり直しを実現するのか、などは分からない。しかし、シャムナは何度も孤独な時間をさかのぼるうちに、それが可能だという確信めいた思考に至ったのだろう。神事を行う彼女ならではの感覚であったかもしれない。

ただし、亡国のなかで時空の管理者は、人間が己の私利私欲のためにギアスを使うようになったことを憂い、人類からギアスを回収したいと考えるようになっていた。シャムナの行動がギアスの行使を繰り返した結果であるならば、またその原動力がシャルルと同じく、独りよがりな願いであるならば、時空の管理者はそれを許容するだろうか。



まとめ


以上がコードギアスの世界における神話的要素に関する、筆者の趣味全開かつ至極個人的な見解である。

コードギアス自体は、ジャンルとしてはロボット・SFであるし、一般的なレベルで宗教・哲学の要素はあろうと思っていたが、こうしてまとめてみると思った以上に露骨な描写が多かった。それでいて雰囲気で終わらせていないところは素晴らしい。

「ラグナレクの接続」は、「新世紀エヴァンゲリオン」の「人類補完計画」と近しい、といった意見も多々見受けられる。実際、これは遠からずで、融合の過程で物質と精神、個人と人類をどこで区別しているかの違いであると考えている。似通った描写になるのはジャンルとしての特徴であるとともに、モチーフの一般性の表れでもある。この観点で並べられる作品はほかにもあるので、また何かの折に考えてみたい。